macでインフォマティクス

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HTS (NGS) 関連のインフォマティクス情報についてまとめています。

ハイスループットDNAライブラリ作成に適したDNA抽出プロトコル

 

 

 最近、次世代シーケンシング(NGS)を用いた、シーケンスによるジェノタイピング(GBS)などのハイスループット分子マーカー技術が開発された。これらの方法論は、ゲノムリソースに関係なく、ほとんどすべての種において、費用対効果の高い方法で迅速に数千の一塩基多型(SNP)マーカーを同定することができる[ref.1]。 DNAの品質は、シークエンシングおよび制限酵素ベースのGBSプラットフォームにとって最も重要である[ref.2、3]。それは、多糖類やフェノールなどのコンタミネーション物質をほとんど含まない高分子量ゲノムDNA(gDNA)を必要とするためである。これらの夾雑物は、シークエンシング品質ならびに制限酵素活性およびそれに続く手順を阻害し、それによって信頼性の低いSNPデータソースを提供する可能性があり、これは遺伝子型分析にとって重大な意味を有する[ref.4 pubmed]。

 特に植物からのDNA抽出は、フェノールおよび炭水化物のコンタミネーションに加えて、組織の均質化を妨げる細胞壁および繊維成分のために問題となり得る。これらの課題に対処するために多くのプロトコルが利用可能だが [ref.3、5、67]、ほとんどが高価(US $ 6– $ 9 / sample)か、スループットが比較的低い[ref.3、8]。さらに、多くの植物抽出法は有機溶媒に頼っているか、 fume hood(ドラフトチャンバー)なしでプロトコールの自動化を困難にするβ-メルカプトエタノール[3、5–7]のような化合物を含んでいる。Whitlock et al. [ref.2 pubmed]は、凍結乾燥した植物組織や昆虫組織から、PCRベースのアッセイに適した、有機溶媒を使わないハイスループットDNA抽出プロトコルを記載している。このプロトコルを改良および拡張して、コストと時間効率を大幅に向上させながら、ルーティンに広範囲の飼料、作物、およびモデル生物種にわたって、freshな組織やフリーズドライの組織から、ハイスループットなシーケンス品質の高分子量gDNAを抽出できる方法を報告する。

  

freshな組織での手順

(96well plate使用)

 重要なことは、ビーズサイズをウェルサイズおよびプレート強度と合うように一致させることである。これは効果的な組織破砕を確実にするために重要であり、ビーズがウェルの底に詰まる可能性、またはプレートが粉砕する可能性を減らす。 gDNA抽出をより高度にするために、プレートは単一の個体からのサンプルで満たされてもよい。

  1. Corning®1 mlディープウェル96ウェルプレート(link)の各ウェルに、50 mgの新しい組織と2つの5/32インチ(3.97 mm)ステンレススチールビーズ(link)を入れる。サーマルボンドシール(link)でヒートシールする。これにより、粉砕プロセス中にビーズがシールを突き破って破損するのを防ぐことができる。また、プレートを液体窒素に5分間浮かべることもできる。Qiagen TissueLyser(link)を使うため、プレートアダプターをあらかじめ冷却する。
  2. 96ウェルプレートをQiagen TissueLyserプレートアダプターにセットし、30 Hzで1分間組織を破砕し、さらに安定した破砕のために、アダプターのプレートの向きを変えて繰り返す。一度に1枚のプレートのみをホモジナイズする場合は、2枚目はバランスプレートを使用する。
  3. プレート用のスウィングバケットローターを備えたHettich Rotanta 460R遠心分離機(または類似のもの)中で-15℃で1分間、4000×gで遠心して植物組織の残渣をウェルの底に沈殿させる。

    一時停止ポイント
    この時点で、処理が再開されるまでプレートを-80℃で保存できる。

    重要なステップ
    ホモジナイゼーションバッファーを添加する前にサンプルが解凍されないように注意する必要がある。これは、特にホワイトクローバーのような反応しにくい種の場合、DNAの品質に悪影響を与えることがわかっているためである。

  4. プレートを氷水中に20分間置き、約0℃に温める。氷がプレートの底に付着するのを防ぐために、アルミの容器に浮かせる。
  5. -15℃で4000×gで1分間遠心し、分散した粉末状の植物材料をウェルの底に沈殿させる。注意深くシールをはがし、マルチチャンネルピペットを用いてリザーバーから500μlのあらかじめ温めてある(55℃で10分間)HBバッファー(*1)と1.8μlの20μg/μlプロテ​​アーゼKを加える。プレートの上面を乾かし、新しいThermal Bondヒートシールを貼る。手動で上下に振とうしてよく混合し(ボルテックスマシンを使用しないで)、次に室温で10分間4000×gで遠心分離する。
  6. 上清300 µlを新しいAxygen®1.1 ml 96ウェルプレート(link)に移す。Hamilton Microlab®STARlet (link) などの自動液体分注ロボを使うか、またはピペットを使って手動行う。
  7. 300 µlのPBバッファー(*1)を添加する。 Axygen®シーリングマット(link)を貼り、プレートを手動で10〜20秒間反転、振とうさせてよく混ぜる。
  8. プレートを氷水浴中で15分間インキュベートする。
  9. 室温で30分間最高速度で遠心する。 Hettich Rotanta 460R遠心分離機の場合、最大速度は8595×g。

    一時停止ポイント                                                                                                     プレートは、DNAの品質に悪影響を与えることなく4℃で72時間まで放置できる。

  10. Pall AcroPrep™Advance 96ウェル1 mlフィルタープレート(link)(link)をAxygen®1.1 ml 96ウェルディープウェルプレートの上に置き、600 µlのBBバッファーを添加し、続いて1ウェルあたり400 µlの上清を添加する。 10回穏やかにピペッティングしてよく混ぜる。

    重要なステップ
    各ウェルは最大容量に近いため、オーバーフローによるクロスコンタミネーションの可能性を回避するために注意が必要。さらに、gDNAのせん断を防ぐためにピペッティングを穏やかにする。

  11. 室温で4000×gで2分間遠心する。フロースルーを捨て、ペーパータオルでコレクションプレート(Axygen®1.1 ml 96ウェルディープウェルプレート)の表面を乾かす。

    重要なステップ
    ryegrass pseudostemのようないくつかの植物種や組織では、炭水化物によるものと思われるフィルター膜の目詰まりが見られた。これは、HBバッファーの添加後にインキュベーション工程を除去することによって減少した。遠心分離後にウェルが目詰まりした場合は、個々のピペットチップでフィルターメンブレンを静かにこするか軽く叩いてから遠心分離を繰り返すことで改善できる。

  12. 1ウェルあたり300µlのBBバッファーで洗浄する。室温で2分間4000×gで遠心する。
  13. 1ウェルあたりり300µlのWBバッファーで洗浄する。室温で2分間4000×gで遠心する。
  14. 1ウェルあたり300 µlの無水エタノールで洗浄する。室温で2分間4000×gで遠心すし、フロースルーを捨てる。
  15. 膜を乾燥させるために室温で5分間4000×g遠心する。
  16. フィルタープレートから溶出するDNAを集めるために、新しいAxygen®1.1 ml 96ウェルディープウェルプレートに交換する。
  17. 1ウェルあたり115 µlの10 mM Tris HCl pH 8および0.04 µlの100 mg ml-1 RNAse Aを加え(リザーバーから分注)、室温で1分間4000 x gで遠心する。これにより、植物種と粉砕効率にもよるが、1ウェルあたり1〜13 µgのDNAを含む約100 µlの溶出液が得られる。プレートをPCRシーリングフィルムで密封し、4度で保管する。
  18. DNAをQubit®2.0 Fluorometerで定量し、Nanodrop ND-1000分光光度計で230〜280 nmの吸光度スキャンを行う。

ランタイムは、98x2の192サンプル処理で、トータル3時間45分程度。

 

 

フリーズドライ(またはシリカゲルドライ)の組織での手順

 凍結乾燥の際には、植物組織の長期保存とDNAの品質を最善にするために、収穫した新しい材料をあらかじめ冷却した凍結乾燥機に入れ、できるだけ早く効果的にvacuumを行う。これにより、凍結前の段階や、初期の凍結乾燥プロセスで組織が解凍し、細胞成分が破裂する可能性がなくなる。これが起きると、gDNA収量が低下する。凍結乾燥機が容易に利用できない場合、特により遠方の野外条件で材料を収穫する場合、効果的な代替手段はシリカゲルで植物組織サンプルを乾燥することである。 1 gの生重量の植物材料あたり10 gのシリカゲル(LabServ Pronalys 2–6 mm self-indicating Silica gel)の割合で入れ、36時間乾燥させた後、シーケンス品質のgDNAを改良プロトコールを用いて抽出することができる。この乾燥方法は、小ロットまたは96ウェルプレートの葉の材料に適している。どちらの方法でも、乾燥前は液体窒素ドライアイスではなく、新鮮な材料を密封バッグに入れて4℃で最大1週間保存できる。DNAの品質は低下しない。 96ウェルプレートに直接採取し、乾燥し、ステンレス球を加え、次いで密封して湿度を下げるためにシリカゲルを入れた容器に保存することは、DNA抽出の前にサンプルプレートを貯蔵する効果的な方法を提供する。プレート内でサンプルを乾燥させることで、前もって乾燥しており、おそらく帯電してひっつく可能性のあるサンプルをウェルに移す場合の潜在的なクロスコンタミネーションも回避できる。

 

  1. 新鮮な葉50 mgをCorning®1 mlディープウェル96ウェルプレートの各ウェルに直接採取し、96ウェルプレート全体および内容物を凍結乾燥またはシリカゲル乾燥させる。 材料がすでに乾燥している場合は、15 mgの乾燥組織を各ウェルに加える。 植物組織は既に脆くそして容易に粉砕されるので、均質化工程にはウェル当たり2つのより小さい(3/32インチ; 2.38mm)ステンレス球が使用される。 サーマルボンドシールでヒートシールする。

    以降のステップは、Qiagen TissueLyserアダプタを予冷する必要がないこと、遠心分離を室温で行うことができること、およびステップ4(アイスバス)と5を省略することを除いて、新鮮な組織のプロトコールと同じである。

 

結果(抜粋)

 50 mgのfreshな組織または15 mgの乾燥した物質からの収量は、種および組織に応じて1〜13μg(平均= 2.7μg)で、260/280 nmの平均吸光度比は2.0だった(論文 表1)(様々な植物種を使用)。さらに、抽出されたgDNAは常に高分子量であり(論文 図1a)、制限酵素による消化に適していた(論文 図1b)。新鮮な組織から抽出したものでも、テスト済みの乾燥植物組織から抽出したものでも(論文 図2)、gDNAは4℃で数ヶ月間安定だが、ほとんどの精製DNAと同様に長期保存は-20〜-80℃が最適である。通常、96ウェルプレート抽出ではプレート全体で比較的一貫した収量が得られた(論文 図3)(white cloverとperennial ryegrassを使用)。

 CTABに基づくプロトコルlink)、Whitlock [ref.2 pubmed]法、そして本法でgDNAを抽出し、シークエンシング(GBS)ライブラリーを作成し、Hiseq2500を使いシングルエンドでシークエンシング(100 bp)した。FastQCで分析すると、CTABに基づくプロトコルでは、良好なphread qualityのシーケンスの他に多数の低クオリティなベースコールも存在し、100 bpリード長に沿ってシーケンス品質はさらに低下した(図4d)。矛盾した、または信頼性の低いSNPデータの原因となるため、これはジェノタイピングに重大な影響を及ぼす。対照的に、Whitlock [ref.2]法からのシーケンスは、良好なクオリティのシーケンスをもたらした(図4e)。この論文で開発された合理化されたハイスループット方法論では、シーケンシングされた配列の最初から最後まで非常に均一にハイクオリティなベースコールを有するシーケンスが生成された(図4f)。これはほとんどのリードがレーン全体にわたって同様のハイクオリティであったことを示しており、下流の遺伝分析における信頼性を提供する。この高品質シーケンス出力は、本プロトコルを使用して抽出されたgDNAをさまざまな種にわたってシーケンスするときに日常的に使用できる(論文 表1)。さらに、この方法を用いてL. perenneおよびT. uniflorumから抽出されたgDNAは、PacBioロングリードプラットフォーム(Macrogen, South Korea)を用いて首尾よくシーケンシングされた(論文 表1)。

 

Discussionは省略 

 引用

Protocol: a versatile, inexpensive, high-throughput plant genomic DNA extraction method suitable for genotyping-by-sequencing

Craig B. Anderson, Benjamin K. Franzmayr, Soon Won Hong, Anna C. Larking, Tracey C. van Stijn,3Rachel Tan, Roger Moraga, Marty J. Faville,  Andrew G. Griffiths

Plant Methods. 2018; 14: 75.

 

* 1

 組成は論文参照。BB bufferにはguanidinium chlorideも入っているが、これも改良点の1つ。