macでインフォマティクス

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HTS (NGS) 関連のインフォマティクス情報についてまとめています。

プライマーを自動設計したり、プライマー全アニーリング部位を確認できる FastPCR

2024/11/01 更新

 

 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、分子生物学の基本であり、核酸増幅に使用される最も重要な実験技術である。(一部略)
 増幅反応を引き起こすための熱サイクリングに依存しない多くの等温増幅技術も開発されている。 そのような技術の1つは、鋳型DNAをオリゴヌクレオチドプライマーおよび高いストランド置換活性を有するポリメラーゼと混合し、混合物を60〜65℃の一定温度に保持するLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)[ref.3]である。他の等温DNA増幅技術も同様に、特定のDNAポリメラーゼのストランド置換活性に依存する。(一部略)
PCR反応の成功は、オリゴヌクレオチドプライマーの正確な設計に大きく依存する。順方向プライマーは第1のDNA鎖にアニールし、逆方向プライマーは第2の相補鎖にアニールする。プライマーがアニーリングするDNA部位が適切な距離で分離されている場合、PCR産物またはアンプリコンとして知られているこれらの部位間のDNA断片はDNAポリメラーゼによってコピーされ、各温度サイクルで約2倍になる。プライマーと鋳型との安定したハイブリダイゼーションはDNAポリメラーゼによるプライマー伸長の絶対的な前提条件であるため、プライマーの正しい選択と検証はPCR反応の成功に不可欠である。
 プライマー特異性は、成功するPCRの最も重要な因子の1つである。適切に設計されたプライマーは、特に複雑なゲノムDNAが鋳型として使用される場合、標的DNA配列にのみアニールする必要がある。理想的には、ターゲットセットからのすべてのDNA配列はプライマーに対して正確に相補的であり、増幅されるが、バックグラウンドセットからのDNA配列はプライマーと一致しない事である。言い換えれば、プライマーは、標的DNA配列のみを増幅するために非常に特異的でなければならない。さらに、プライマー融解温度は、同じ温度で標的DNA配列への適切なアニーリングを可能にするために非常に類似している必要がある。プライマーが反復配列(レトロトランスポゾン、DNAトランスポゾンまたはタンデムリピート(wiki))に相補的である場合に問題が生じる可能性があり[ref.16]、プライマーが逆方向反復配列に相補的である場合には代替増幅産物が生成され得る。しかしながら、逆方向反復の生成は、一般的なDNAフィンガープリント法で利用されている。多くの場合、これらのPCR反応では1つのプライマーのみが使用され、生成物の末端はプライマー配列に相補的な逆方向反復を含む。

  真核生物では、インターレトロトランスポゾン増幅多型(IRAP)などのインターリピート増幅多型技術は、レトロトランスポゾンおよびSINE様配列の長い末端反復(LTR)などの非常に豊富な分散したリピートの存在を利用している[ ref.18]。これらの配列を互いに関連付けることにより、反復配列と相同なプライマーを用いて一連のPCR産物(DNAフィンガープリント)を生成することが可能になる。 LTRから外側を指し示す1つ、2つ以上のプライマーを使用して、2つの近くのレトロトランスポゾン間のDNA配列を増幅する。プライマーは、同じレトロトランスポゾンファミリーまたは異なるファミリー由来の配列と相同であり得る。 PCR産物および対応するフィンガープリントパターンは、ゲノム中の数百から数千の標的配列の増幅から生じる[ref.19,20]。
 DNAシーケンシング技術の開発、特にハイスループットシークエンシング(次世代シーケンシング)の出現により、膨大な量のrawゲノム配列データの蓄積が進んている。現在、多くの原核生物および真核生物のゲノムがシーケンシング解析され、データベースにアノテーションが登録されている。このため、rawシーケンシングデータから有用な情報を抽出し、ツールを使用して情報を処理し、計画段階ですでに実験結果を予測するin silicoアプローチに対する需要が高まっている。そのようなアプローチの1つは、in silico PCRである。in silico PCRの通常の目標は、既に設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、1つまたは複数のDNAテンプレートから合成されるPCR産物を予測することである。他の一般的な目的には、ゲノム中のテンプレート配列の位置、ならびにヘアピン、G-四重鎖、二次/四次構造の融解温度の予測、self-dimersおよびross-dimers in primer pairsなどのプライマー/プローブ設計および分析が含まれる。
 現在、いくつかのWebベースのin silico PCRツールが生物学者に利用可能である[ref.23-26,21,22,27-32]。そのうちの1つであるPRIMEXは、k- mer lookupテーブルを使用して、全ゲノムから短い配列のマッチする部位を検索する[31]。ウェブサーバ「Electronic PCR」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/tools/epcr/)[29]は最大2つのミスマッチを許容してゲノムの検索を可能にする。別のWebサーバであるUCSCの in- silico PCRhttp://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgPcr)は、定義されていないゲノムを検索するアルゴリズムを使用している[ref.24]。最後に、Primer-BLAST [33]は、BLAST [26]を基礎とする検索方法として使用するWebサーバーである(紹介)。
公開されたin silico PCRアルゴリズムのほとんどはヒューリスティックであり、スタンドアロンのソフトウェアパッケージとして利用できるものはほとんどない。注目すべき例外はPRIMEX [ref.31]とWindows用FastPCR [ref.34,21,35]である。さらに、in silico PCRに一般的に使用される配列類似性検索アルゴリズムの適用は完全には成功していない。例えば、BLASTは完全なプライマー配列をカバーすることができないかもしれないローカルアライメントを作成し、可変長の任意の配列によって分離されたクエリペアの検索をサポートしていない。degenerateプライマーはアライメントシードに現れないため、誤ったネガティブを避けるために特別な処理が必要となる。許容可能な一致数を見つけるのに十分に敏感なパラメータは、多数の誤検出を生成する可能性があり、有効なヒットを識別するために広範な後処理が必要となる。 Primer-BLASTはワード長が7であるため、プライマーと7-merの一致が必要になる。例えば5番目および10番目にミスマッチがある長さ15のプライマー検索を考える。最も長い同一k-merは5ntであり、BLASTは一致を見出すことができない。

 優れたin silico PCRプログラムは、5 'または3'テイルや一塩基多型(SNP)を持ったdegenerateプライマーやプローブを取り扱うことができるものである。さらに、メチル化されたシトシンと高度に分解され化学的に修飾されたDNAのみを含有する重亜硫酸塩処理DNAなど古細菌叢およびミイラサンプルのデータともコンパチブルであるべきである。最後に、プログラムは、単一の反応でmultiplex PCR、nested PCRまたはtiling PCRを処理できなければならない。これらの考慮事項は、上記のすべてのタスクを処理できるスタンドアロンソフトウェアとオンラインソフトウェアの両方を開発する動機となった。著者らの目的は、線状または環状DNAテンプレート上でin silico PCR、大規模または小規模のデータベースからの複数のプライマーまたはプローブ検索(論文 表1)から高度な配列分析ができる効率的で使いやすい計算ツールを作成することであった。このソフトウェアは、標的配列からのプライマーまたはプローブの迅速な選択、プライマーの位置、向き、アニーリング効率、および標準オリゴヌクレオチドおよびdegenerateオリゴヌクレオチドのプライマー melting temperatures計算に有用である(以下略)。

 

公式HP

https://primerdigital.com/fastpcr.html

マニュアル(右のリストからジャンプできる)

http://primerdigital.com/fastpcr/

 

In silico PCR against whole genome(s) or a list of chromosomes with jPCR or FastPCR

 

ラン

マニュアルおよびダウンロード

http://primerdigital.com/tools/pcr.html

黄色のLaunchボタンを押してJava webスタートファイル(wiki)をダウンロードする。pcr.jnlpをダブルクリックして起動する。Appストアからダウンロードしていないので起動できないと表示されたら、環境設定から例外URLを追加する。Javaをクリック。

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Webの設定タブに切り替え、追加ボタンを押してhttp://genomeview.orgを追加した。

2020 5/23 => http://primerdigital.comに変更

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適用をクリックし、OKをクリックして閉じる。

 

pcr.jnlpをダブルクリックして起動する。

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widnowsならインストーラーからインストールする。

インストール完了

起動した。

 

基本的な機能

FastPCRウィンドウ下部に塩基配列をペーストする。上のメニューボタンから翻訳したり、Complementary、reverse、antisenseなどの変換ができる。

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ツールメニューからも同様に実行できる。

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より高度な機能を見ていく。

 

注;動作しない場合、一旦再起動する。また、配列はウィンドウにペーストするのではなくFile => Open から読み込ませる。

 

プライマーの自動設計

1、PCR primer designは、指定した配列を対象にプライマーを自動設計できる。FastPCRウィンドウ下部にprimerを設計したい配列(遺伝子など)をペーストする。

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 2、FastPCRウィンドウ上部のPCR primers designタブで長さ、Tm、GCなどを指定する。Special settingsの項目では、Default criteria以外に、Long distance、Quantitative、などを選ぶこともできる。指定した条件でprimerがデザインされる。

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条件が決まったら、▶︎ボタンを押して実行する。

 

3、デザインされたprimer配列が表示される。配列が長ければかなりの数のプライマーが設計される。

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プライマーリストの下には好ましいプライマーペアもまとめられている。

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名前は以下のルールに従ってつけられる。f:id:kazumaxneo:20180712100133p:plain

複数配列も同時にprimer設計できる。

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設計したPCRプライマーの全アニーリング部位を確認する

1、まずクロモソームのFASTAファイルかGenbankファイルを読み込む(複数同時読み込み可)。File => Open Genbank FASTA files(s)

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10kb程度の配列なら下のウィンドウに直接コピー&ペーストしてOK。

 

2、FastPCRウィンドウ下部のPre-designed primerタブに前もって設計していたPCRプライマー配列をコピー&ペーストする。

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先ほどのprimer自動設計で作った配列をそのままのフォーマットでペーストしても機能する(先にstep1の作業を行い、検索対象をプライマー設計した配列からゲノムに切り替えておく)。

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 ↑ 自動作成したプライマーリストをそのままコピー&ペーストしている。 

 

3、FastPCRウィンドウ上部のin silico PCRタブに繰り替え、実行条件を確認する。切り替えたタブによって実行内容が変わるので必ずin silico PCRのタブに切り替えておく。show all matching for primer alignmentにチェックが付いていることを確認する。環状ゲノムなら5'末端と3'末端にまたがってアライメントされる可能性も考慮する必要があるため、Circular sequenceにチェックをつける。この指定したパラメータ設定に従ってプライマーアニーリング部位が調べられる。

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4、FastPCRウィンドウ右上の緑の▶︎Runボタンをクリックして実行する。プライマーの全アニーリング部位がサーチされる。

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5、バクテリアのゲノムサイズであれば1-2秒でサーチは終わる。結果はFastPCRウィンドウ下部のIn silico PCR resultに表示される。テストしたforward primerはspecificだったが、reverse primerは 2ヶ所で100%マッチし、1ヶ所で90%マッチしていた。しかし、その中で増幅可能な組み合わせは1つだけだったので、一番下のAmplicon sequenceのプライマーペアは1つだけ表示された。

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Primerリストの基本情報

Primer list analysisタブでは、たくさんのprimer配列の簡単なstatisticsを分析できる。万単位のプライマーリストでも機能する。

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ファミリー遺伝子それぞれの特異的なプライマーの設計

PCR primer designのGroup specific PCRにチェックをつけておけば、それぞれの配列特異的なプライマーを設計してくれる(念のため、他のツールでチェックしてから注文してください)。これはコピー遺伝子やファミリー遺伝子のspecific primerを設計するのに便利で、しかも、動画のようにマルチプルアライメント実行したファイルを直接コピー&ペーストしても機能する。

その他にもたくさんの機能があります。webマニュアルを確認してください。

 

 

  • windowsにインストールできる有料版では、よりたくさんの機能が利用できるようです(リンク)。
  • 無料のjava webスタート版は安定に動作しますが、フォーマットが多少おかしくても動いてしまいます。ラン中にフリーズしたら、Appleマーク => 強制終了からFastPCRを停止し、もう一度立ち上げて使ってください。
  • (追記)有料のライセンスに変更された。7日のみtrialできる。

 

引用

Introduction on Using the FastPCR Software and the Related Java Web Tools for PCR and Oligonucleotide Assembly and Analysis.

Kalendar R, Tselykh TV, Khassenov B, Ramanculov EM

Methods Mol Biol. 2017;1620:33-64

 

FastPCR: An in silico tool for fast primer and probe design and advanced sequence analysis
Kalendar R, Khassenov B, Ramankulov Y, Samuilova O, Ivanov KI.

Genomics. 2017 Jul;109(3-4):312-319

 

FastPCR software for PCR, in silico PCR, and oligonucleotide assembly and analysis.

Kalendar R, Lee D, Schulman AH.

Methods Mol Biol. 2014;1116:271-302